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20080721
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TDK後→超人リターンズの流れで。

超人は臼顔で黒いとときめきますが、どうなんでしょう。

ややシリアス、甘味ゼロ、黒超人→潔癖お嬢。


 最初に見たときは、どうして人間なのに、としか思わなかった。
被弾しても呻き声すら上げない。黒い影は闇に溶け込み、そして再び現れる。

 音もなく。

 でも確かに耳に届いた鼓動と、彼のかすかな息遣いに、私は何だか泣けてきて、滲む視界でゴッサムを見下ろした。これは悪徳の栄える街にして、最も高潔なる者の君臨する王国。

 どこかのコメンテーターが訳知り顔に口にしたように、彼がこの戦いの引鉄を引いたと言っていいのだろう。
 ゴッサムの悪の根は深い。ゴードン市警本部長らがマフィアの資金源を断とうとしたことは間違いではない。
 空白の5年分の知識は新聞を端から端まで読んで蓄えたが、あんまりにもゴッサムの闇騎士についての情報は少ない。あんな戦車のような乗り物で街を大破させたのにもかかわらずだ。だから彼を見にこの街まで来て、そして私は泣いている。なんということだろう。

 人は何と気高く、潔く、そして脆いものか。

 もしあの蝙蝠の翼を、厳しい装甲を銃弾が突き抜ければ、彼はあっけなく死んでしまう。
 それでも彼は闇に現れるのだ。犯罪と戦うために。

 ああ。確かに。確かに彼のやり方は正義ではない。容赦なく敵を打ち砕く純粋な力だ。仰々しい装備とそれを使いこなす完全な肉体と、明晰な頭脳。その上、素顔はゴッサムで最も愛され、そして笑われる陽気な大富豪ときたものだ。身を削ってまで犯罪者を殴りつけなくとも、その名声と莫大な資産があれば他に戦いようもあったろうに、だのに彼はそれをしないで自分を傷つけている。

 何と愚かな男か。

「バットマン――」
 マシンガンをぶっ放していた最後の男を縛り上げた彼に近付くと、バットマンは露骨に嫌な顔をした。
「バットマン。今日はもう終わりかい?」
 返事はない。踵を返すのは肯定か否定か。パトカーのサイレンはまだ遠く、そしてろくに意識がある者もいない。
「バットマン」
 暗闇に去ろうとする騎士の腕を掴んで、少しばかり引き寄せる。カウル越しに囁くのは彼の名だ。
「――ブルース」
「自分の街に帰れ」
「君の傍にいたい」
 噛み合わないのは承知の上だ。バットマンは腕を振り払うと、ワイヤーを投げて上空へ逃げた。
 サイレンが近付いてくる。
「夜明け前に迎えに行くよ」
 私の声は聞こえただろうか。ビルの谷間をスイングしてバットマンは暗闇に溶け込んだ。かすかな鼓動が、それの示す方角だけが彼がもう帰ろうとしていることを知らせる。

「君にとってジョーカー以上に理解できない相手になるよ」

 くっと笑って、飛び立つ。わたしの宣戦布告も夜に掻き消えた。

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