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20080721
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HH様のリクエストフォックス社長と最強執事のコンビにいびられるクラークと、それに気付かずのほほんとしているブルース」より。

前提としては恋人未満友情以上クラブル、保護者公認(カ)というところで。

長い間お待たせして申し訳ありませんでした。本当はもう一個のリクの三つ巴の話を書いていたのですが、完成目前でデータ飛んでしまって、どうしても書き直す気になれなかったので!ごめんなさい!




 その日、ブルース・ウェインはご機嫌だった。
「うん、いい。とても似合っている。素敵だ」
屈託もない笑顔をクラーク・ケントもとい、眼鏡を外したスーパーマンに向け、そして執事を振り返った。
「そうだろう、アルフレッド?」
「はい。先ほどの赤と青のストライプよりずっと上品でございますよ」
ブルースが鋼鉄の男の首から引き抜いた野暮ったいネクタイに、ちらりと老執事の視線が滑る。スーツが紺ならば悪いこともないだろうが、今は光沢のあるダークグレーだ。ブルースの選んだ銀糸と淡いピンクの交織のネクタイは品よく威丈夫の胸を飾り、褒められたカル=エルは野性味さえある笑みをブルースに返した。
(まったくもって、性質が悪い)
執事は産着の頃から仕えている主人のために目を細めた。
このクラーク・ケントもといカル=エルという男は眼鏡一つの有無で性格が180度ほども違うのだ。
おどおどとした猫背の新聞記者から、尊大ささえ感じさせるほどのスーパーヒーローに。
本人は嫌味などまったく込めていないのだろうが、存在自体に腹が立つというのはこういう輩をいうのだと、日頃客人に好悪を抱かないように自律しているアルフレッドでさえ思うのだ。部屋の隅でシガーを噛み切りそうになっているルシアス・フォックスの心中や推して知るべし。
鏡を覗き込み、癖のある前髪を緩やかに横に流したカル=エルは、どこのムービースターかと突っ込みたくなるほど優雅にブルースに微笑みかけた。
「ばれないかな?」
「もちろん、ばれるだろうが、堂々としていれば大丈夫ではないか?」
小首を傾げるブルースに老執事は小さく息を吐いて、コーヒーの用意に取り掛かった。フォックスには気分転換が必要だ。これ以上、ストレスを与えては血管が切れてしまうかも知れない。
彼らはこれからクラシックのコンサートに二人で出かけるのだ。ゴッサムにありがちなごたごたでニューイヤーコンサートの衛星中継を見逃したブルースはたいそう落ち込んでいて、「大富豪は陰気なクラシックがお嫌い?」などと書きたてたゴシップ誌の記者が見たら卒倒しそうなほど機嫌が悪かった。
「じゃあ次のコンサートは一緒に行こうよ」と、気楽に誘ったのは青と赤のコスチュームが目立ちすぎる男で、誘われたこと自体にはブルースは了承を示したのだが、そのまま行けば確実にコンサートどころではなくなると拗ねた。
そこで我らが偉大なる執事の登場である。彼はブルース・ウェインの友人としてのカル=エルの存在は認めていた。何故なら丈夫だからである。鋼鉄の男たるスーパーマンが殺されたり、事故に遭ったりして損なわれる心配は皆無だし、ブルースの方の事情として誘拐やら何やらに巻き込まれても安心のセキュリティーである。ついでに彼のストーカー並みの監視があれば、夜の危険な散歩にブルースも気軽には出かけられなくなるだろう。執事は若主人に乞われるままにスーパーマンの採寸をし、生地を選び、テイラーに期日通りに美しいスーツを縫い上げさせた。
あとは偏光のサングラスをかけさせれば、並みのパパラッチでは決してその素顔を探ることはできぬ、謎の美男子の完成である。とはいえ、かつてブルースの崇拝に近い友情を向けられたゴッサムのアポロはもはやこちら側にはいない。大富豪の傍らに身元不明の男が侍っていては追求の対象にならないわけがない。
それがわかっていても、アルフレッドは楽しげなブルースに水を差すような真似はしたくなかった。
コンサートのあとに彼らが年相応の若紳士らしい遊びをしてきても構わない。むしろすべきである。尻の軽いガールズと笑いあったり、儚げなレディの手を取っておつむの弱い振りをするより、ブルースには与えられて当然の時間があるのだから。
「坊ちゃま。今度はあなた様の番でございますよ。お召し替えが済んだ頃にはコーヒーがちょうど落ちるでしょう」
そうか、と機嫌よく自室へと上がって行くブルースの背を見送り、アルフレッドはそっと扉を閉めた。すでにフォックスがスーパーマンへと詰め寄っているのが視界に入り、目を伏せた。よくある舅と娘のボーイフレンドの力関係だ。この場合、重度の箱入り息子なのだが。
「落ち着いてください。ミスタ・フォックス」
「私は十分、落ち着いている。ただ腹に据えかねているだけだ」
ネルドリップでブルースの好む味になるように湯を注ぐ。フォックスに緑色の石のついたカフスを贈ったのは自分だが、ちょうど胸倉を掴むときに相手にダメージを与えられるのだなと満足して、ポットを置く。
「いいか。門限までに帰ってこなかったらどうなるか想像も出来んようにしてやる」
「え、いや、はい。もちろんですとも」
緑色の光に冷や汗を浮かべながら、カル=エルは引き攣った笑みを浮かべた。何故だろう。クラーク・ケントのときよりも、ダイレクトに牽制されている気がするのは。
「さて、スーパーマン様。お砂糖は十個ですか二十個ですか?」
「…え!いえ、砂糖はいりません!!!」
あまりに普通に聞かれたために返事が遅れたのだが、返事が遅いのが悪いといわんばかりの視線を向けられ、カル=エルは唇を震わせながら、砂糖が4つばかり入ったコーヒーを受け取った。
「アルフレッド。靴はこれでよかったか?」
階段を駆け下りてきたブルースが茶色の革靴とともに扉を開けると緊迫した空気は一瞬で払われた。
「タイピンが必要なのではないかね。スーパーマン?」
カル=エルの胸元に手を触れていたフォックスがいい、ブルースはそちらを振り返った。
「ルシアス?」
「これ何かどうだい。ブルース?」
ブルースの瞳のような暗青色の石がついたタイピンをカル=エルの胸に宛がい、フォックスが笑顔で問う。石もさほど大きくなく、繊細な作りのピンで、ブルースは口元を綻ばせた。
「いいと思う。クラークに貸してくれるのかい?」
「坊ちゃま」
クラークの名を呼んだことを執事が咎める。今日は自社の新聞記者とではなく、名の知れぬ友人と出かけるのだ。家にいるからと油断していたら、外でも間違うかも知れない。ばつの悪そうな顔で「カルに」と言い直したブルースにフォックスは歯を見せて笑った。
「これは彼にプレゼントするよ。私がするにはデザインが若すぎるしね」
「そうかな?品がよいからルシアスにも……」
戸惑うブルースに構わず、フォックスは緑の光に苛まされ無抵抗なスーパーマンのネクタイにピンをつけた。
(ああ…何かの機械音が聞こえる…)
手には甘すぎるコーヒー、胸には何らかの装置を受けこまれたタイピンを飾り、スーパーマンはブルースの前に立ち塞がる双璧の高さに弱々しい笑みを浮かべた。

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いちおう、コンサートにはちゃんと行きますよ。ブルースはクラシックがめっちゃ好きというよりは、正月行事と認識しているニューイヤーコンサートをリアルタイムで聴けなかったことにご機嫌斜め。
友達と認識している超人が普通に男前にスーツ着てお供しますと言ったことにうきうきしているので、デートと気付いているか微妙。報われないね、クラーク…(微笑み)

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