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20080721
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これがエルスかどうかって言うのは、正直わからないのですが、なんとなく、違う気がします…。

今更ですがこの話はこれの流れです。


--------------


「――表の裏に裏あり」
  リズは自分を車の後部座席に引きずり込んだ男にそう告げた。白と黒。ハンサムな頬と焼け爛れた反対側。投げ出されたままの身を起こすと、急発進した車を避けてドミノ倒しになる人々と二人が見えた。
「謎かけならリドラーにしてやってくれ、お嬢ちゃん」
  小さくなっていくブルースとクラークの凍りついた顔に、窓越しに手を振り、リズは銃をもったトゥーフェイスの傍らに座りなおした。自分の心配はしていないが、あの二人が無茶なことをする予感はある。ブルースが傷つかないといいのだが。
「――私を攫ったのか?」
「この状況で他に何か考えられるか?」
トゥーフェイスは銃を懐にしまい、リズの黒い瞳を覗き込んだが、急ブレーキを交えつつ鮮やかに切られるハンドルに舌を噛みそうになり、口を噤んだ。何かに接触しそうになりながらも、決してぶつからない。しかし部下の運転技術を褒めてやるには、センターミラーに写る部下の顔が不可解だ。今にも泣き出しそうに歪んでいる。
何回目かのぎりぎりの接触を免れ、地下道に滑り込むとトゥーフェイスの部下は土気色の顔でハンドルから手を離した。
「し、しぬかと思った…!」
「よくやった。アクション・スタントみたいだったぜ?」
「冗談じゃねえよ。勝手にハンドルが動いたんだ!こんな車二度と乗るもんか!」
労ったトゥーフェイスに怒鳴り返し、ほうほうの体で運転席から這い出して逃れる。リズは小さく笑った。
「私の名はフォーチュナーだ」
「ラッキーガールってことか。ありがたいね」
「ありがたいかどうかはわからぬが」
リズはトゥーフェイスの顔を無表情で見つめ、それから空を仰いだ。
「その子を返してもらおうか」
「何だってお前なんだよ。スーパーマン」
「ここはゴッサムだって言いたいのかい。トゥーフェイス?だが今は真昼だ。彼の支配する夜ではなく、ね」
なるほど、と頷くとトゥーフェイスは時計をちらりと見、そしてコインをかざした。
「じゃあ賭けるか?お前が勝ったらこのラッキーガールを返してやってもいいぜ」
「負けたら?」
「腕づくで取り返しな」
「君たちが私に腕力で勝てるとは思えないが。しかし争わないでいい確率が五割もあるならいいかもしれないな」
真っ赤なケープを風にそよがせ、スーパーマンはゆっくりと降りてきた。
「裏か表か。どうする?」
「その黒く潰れた方が裏なのかい?……では、私は表だ」
「じゃあ、裏が出たら俺の勝ち」
「では私は裏の裏だ」
唐突にリズがいい、幼子らしからぬ表情で目を細めた。
「またそんな謎かけみてぇなこと言いやがって」
呆れたようにトゥーフェイスが舌打ちする。どうにもこの幼い娘は年齢に似合わぬ大人びた物言いをする。だが追求することはなく、親指でコインを弾いた。コインはきれいに真上に跳ね上がり、再び彼の手の甲に戻ってきた。
「裏が出たら――」
押さえつけた手を除けて、トゥーフェイスは絶句した。
手の甲に載っていたのは金色に輝く金貨一枚。トゥーフェイスのシンボルでもあるあの両面のコインではない。黒く潰れた後さえもなく、トゥーフェイスはコインを探して足元を見渡した。
「わが姫の購いには安すぎるが」
  くつくつと笑ったのは美しい男だった。誰もその気配に気付かず、トゥーフェイスもその部下もスーパーマンさえもぽかんとして彼を見た。
「エリック」
ふわりとリズを抱き上げ、そのスーツの男はトゥーフェイスに彼の忌まわしいコインを投げて返した。
「その金貨はお前にやろう。世の中には裏と表では表せぬものがあると、知りたくなければ去るがよい」
トゥーフェイスは何かを叫ぼうとし、そしてはっとしたように後ずさった。
男の背後は行き止まりなのだ。誰か、人間である何者かが現れるはずがない。それこそスーパーマンのような超人か、あるいは人外の怪しげなものか。
その様子に男は群青の瞳を愉しげに細めた。スーパーマンは笑みに遠い記憶を思い出し、目を見張った。
「急いで戻ることだ。スーパーマン。私は嘘は言わない」
電話口と同じ深みのある声。リズもまた言わなかったか。「エリックは嘘をつかない」と。
「ブルース・ウェインが狙いか!」
スーパーマンはトゥーフェイスを振り返り、そして今にも失神しそうな彼の表情に戸惑った。
トゥーフェイスの足首を掴む白い手。それは地面から直接生えていた。あるのは手首から先だけで、腕も、体も、もちろん顔もない。
「――。放してやらなくてはその男も立ち去れまい」
男が言う。白い手はするりと消え、トゥーフェイスは腰を抜かさんばかりの弱弱しい足取りで駆け出した。
「ミスタ・カーク?」
スーパーマンが呼びかけると、エリックは空いた手で黒髪を掻き揚げた。白い頬に端正な顔立ち。群青の瞳と黒髪がどこかブルースを思い起こさせるが、決定的に違うのは彼には人間らしからぬ何かがあることだ。
「早く、行ってやらねばならぬのではないか?」
立ち尽くすスーパーマンに口の端を吊り上げて笑い、その尻を叩く。はっとしたスーパーマンは赤い一閃となってブルースの元へ飛び去った。


「楽しかったか?」
「夜まで構わないといったのに、嘘つきだ」
拗ねたリズにエリックはくっと喉を鳴らした。
「私は嘘をつかないと言った端から嘘つきと詰るのか。どうせ夜はすぐそこだ」
見上げた空はゴッサムには珍しく鮮やかな茜色に染まっている。じきに夜が来て、空にシグナルが映されるだろう。今宵は満月。心弱きものが狂気に引き摺られる夜だ。
「……人の、かわいらしい望みをたくさん見たのだろう?」
ブルース・ウェインならば金が欲しいだの女が欲しいだのといったつまらない望みは持たない。スーパーマンも然りだ。人の望みを読み取る能力を持つ小さな姫を預けるのにこれ以上の存在があるだろうか。
「二人とも、一緒にいたいとか相手を喜ばせたいとかそんなことばかりだ」
「そうか。よかったな」
うん、と頷き、リズは黙ってエリックの首に腕を回して縋りついた。


「ブルース。あの子、あのときの子だ!」
誘拐されかけていた大富豪を救出したスーパーマンは興奮したそのままに、ブルースを抱き上げ、ウェインマナーへと駆け戻った。
リズがトゥーフェイスに誘拐された直後、クラークはスーパーマンとして後を追い、ブルースは大富豪ウェイン氏としてちょうどパトロール中だった警察にあれやこれや質問されていた。その警官こそがトゥーフェイスの一味、正確にはトゥーフェイスを唆した名もなき悪党の仲間だったのだが、テンションの上がったスーパーマンにあっという間に捕らえられてしまった。余談だがトゥーフェイスには何事も割り切りたいという、「2」への執着心から、騙され、利用されやすいという欠点がある。彼の犯罪は大抵、単独では成功するものの、誰かと組むと失敗する傾向にあるのだ。それなのに誰かと組みたがるというのはやはり「複数」に惑わされているのだろう。
「あの子、君と初めて出会ったときに、空港にいた女の子だ!」
「……気付いていなかったのか?」
ブルースは抱き上げられたまま自邸へと戻ったことに不機嫌になったが、しかし玄関前に美しい赤毛の佳人を見出して、居住まいを正した。
「こんばんは。ミスタ・ウェイン。ミスタ・ケント。ミスタ・カークより伝言がございます」
男か女かもわからぬ美貌の主はふんわりとした笑みを浮かべ、ブルースとクラークに手を差し伸べた。
「リズと遊んでくださったお礼に、今宵一晩の平穏をとのことです。お受け取りいただけましょうか?」
「平穏を望めるならばこれ以上のことはあるまい」
ブルースはそう返したが、信じているのかそうでないか判別しがたい。きょとんとしていたクラークは、ブルースの返答を聞いて、頬を緩ませた。
「確かにこの街で一晩の平穏がいただけるなんてこれ以上のことはないよね」
「お受けいただけてようございました」
差し伸べられた佳人の手の平で、ぱしりと何かが弾けた。
驚いた一瞬のうちに赤毛の美しい人の姿は掻き消え、ブルースは静かに息を吐き出した。
「き、消えちゃったよ。ブルース!」
「……人ではなかったのだろう」
「ひ、ひとでないって!」
「クラーク。お前、私と出会って何年経つ?」
「えっと、ちょうど五年目かな」
「空港で出会ったとき、リズは何歳に見えた?」
「五歳か六歳ぐらいだね」
「今日は何歳に見えた?」
「……五歳か、六歳ぐらいだね…」
笑顔を引き攣らせたクラークに、ブルースは心底呆れた眼差しを向けた。
「確かに、普通の人じゃないね…」
ブルースは黙って玄関扉を押し開け、だが唇に笑みを刻んだまま、寝室へと向かった。
「ただいま。アルフレッド。今日は街が静かな日らしいから、君も今宵は休め」
「おかえりなさいませ。ありがたいお言葉でございます」
「ブルース。僕、君の部屋で夜明けを待っていいかな?」
「勝手にしろ」
ブルースは背を向けたままぞんざいにいい、クラークは爽やかな笑みを浮かべた。

そうしてその夜は本当に、ゴッサムで犯罪発生件数ゼロという快挙を、四十二年ぶりに成し遂げたのだった。

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びっくりするぐらい間が空いてすみませんでした。これでこの話は完結です。
もしエリックに興味があれば、こちらをどうぞ。

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