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20080721
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我らがアルフレッドです。

 もう夜明けに近い時間。ケイブにモービルが飛び込んできたはいいが、一向に開かない扉にアルフレッドはとことこと近づき、外からロックを外した。
「ブルース様。どこかお怪我を?」
シートに沈み込んだバットマンはカウルの奥でかすかに目を開け、そしてようやっと老人に聞こえるかどうかという声で答えた。
「…ねむい…」
「お休みになるなら寝室へ行かれませ!」
アルフレッドの悲鳴は聞かずに夢の世界へとダイブした若主人からカウルを引っぺがすと、その目の下のクマはもはやメイクのせいだとはいえないほどに濃い。老執事は己の細腕と主人の体格を見比べ、そして電話機を取った。

「申し訳ございません。やはり老体にはこの健やかにお育ちのぼっちゃまを担いで上るというわけには参りませんのでして」
かまいませんよ、とアルフレッドに呼び出されたクラーク・ケントは始終爽やかな笑顔で労働に従事した。
ケイブで装甲を外されて、あの強靭な繊維で出来たタイツも脱がされたというのに、一向に目覚めないブルースをバスローブに包んで、屋敷の寝室へと運ぶ。スーパーマンには何でもないことだし、恋する男にとって恋人を保護者公認の元に抱いて歩けるというのは役得でしかない。
「頼っていただけて嬉しいですよ。アルフレッドさんにはいつもおいしいものをいただいてますし、ブルースのことでお役に立てるなら嬉しいです」
「ではもう一つ、お言葉に甘えてもよろしいでしょうか」
「もちろん」
アルフレッドはちらりとブルースを見たが、寝不足が人体の限界まできた男はぴくりともしなかった。
「今日の昼からテレビの密着取材が入っておりますので、このままバスタブに突っ込んで洗ってきていただきたいのです」
「えーと。その任務自体は喜んで引き受けるけど、間違いなく、僕は蹴られるよね…?」
「ではケント様はこのまま泥雑巾のような主人を公衆の面前にさらして、無能の召使のレッテルを貼られるのに耐えよとこの老人に仰るのですね?」
よよよ…とわざとらしくアルフレッドは泣きまねをし、クラークはため息をついた。
「蹴られるぐらいは耐えますが、出入り禁止になったらとりなして下さいね…」
「もちろんでございます。ぼっちゃまを砂糖菓子のような若紳士にいたしますのはこのアルフレッドめの責務でございますから、それについて口答えなどぼっちゃまにさせるものですか」
ぴしゃりというアルフレッドは確かに頼もしいが、発言の内容はどうにも召使いの分際を超えている。
クラークは黙って、そして心の中で覚悟を決めて、ブルースをよい香りのするバスタブへと突っ込んだ。
「うん…?」
ブルースは目を開け、クラークとそして澄ました顔のアルフレッドを見、そして再び目を閉じた。
「――え、それだけ?」
「ぼっちゃまは昔から寝汚いのです。どうあっても寝ると決められたら、頭から水を掛けられようと動きません」
「かけたことがあるんですね…」
クラークは心遠く呟き、そしてウェイン・マナーにおける主従の幻想の何かが崩れ落ちたことにそっと涙した。


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このあと執事指導の元、ぼったまを泡立てて、乾かして、ベッドに放り込んで、「放蕩児が夜遊びが過ぎて寝過ごしました」設定から取材が始まります。クラークお預けです。。

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