たまには素直に

　自分のカテゴリ分けが自分でわからなくなってきて、へこみます。。
「わんこ」ってなんだ…。

あと何日かすると一周年なので、悔いのないようにやっていきたいとは思いますが、どう考えても連載物が終わらないなあ…。いや、諦めるな！逃げちゃだめだ！（←何でも使ってみたい年頃です）

　いつものつまらないパーティーの人混みの中、ひとつ飛び出た頭を見つける。

クラーク。

壁際で所在無く立ち尽くしているのは、すぐ側でロイスがさる実業家にアタックをかけているからだろう。南米の辺りに不透明なパイプを持つと有名だ。だがすぐに危険な真似をするような、男でもない。もっと腹黒く、狡猾で、理性的だ。煙たい記者が群がろうと、笑顔で否定し、手出しすることがない。

ロイスみたいなタイプは取材妨害や身の危険を感じた方が燃えるからな…。

当たり障りのない、困ったような笑顔。鍛えた腹筋と甘いマスク。少し早口の英語はウィットに富んでいて、時折、気品を垣間見せるフレーズを意図的に挟む。私からみれば鼻持ちならないが、ロイスからすれば少し意外だったようだ。知的探究心を満足させるような、会話の流れは、確かに楽しいのだ。

ふと彼が私を見、その視線を追って、クラークもこちらを見た。

「ミスター・ウェイン」
私に向けられた飛び切りの笑顔は実業家のものだ。クラークは驚いたのか、わずかに口が開いている。ロイスに近づき、彼女の頬にキスをして、私は実業家に酔っ払いの愛想の良さで応えた。
「やあ。えーと。こないだターナーの紹介でお会いしましたね。なんだったか。……砂糖を売ってるんでしたっけ？」
「いや、最近は燃料用の農場を経営しています。ミスター・ターナーともその件で」
「ああ！失礼しました。そうそう、バイオエタノールでしたね。彼も本業より、明るい社会的な貢献がしたいとか。たしかに戦争屋というのは有権者にはマイナスイメージですし。今度のチャリティーにあなたも参加してくれるといいんですが、リオのカーニバルのときだから無理かな？」
軽薄に笑い飛ばして、まだ何か言おうとする男の後ろにいるクラークに笑いかける。
「ケント君！いや、君に会いたかったんだ。君、私のことは好きか？」
「え？ええ！いや、その、好きか嫌いかといわれると、そりゃあやっぱり好きですけど…」
しどろもどろに答えるクラークの腕をバンバンと叩いて、私は彼に抱きついた。
「よかった！実はパーティーに来る前、DP社で君の机にぶつかって、すっごい雪崩れを起こしてしまったんだが、許してくれるな？」
クラークは演技でもなく、ぎゃっという風に顔を引きつらせたが、しかし私が小首を傾げると頷いた。
「も、もちろんですよ、ミスター・ウェイン……」
「君はいい男だ！よし、飲みに行こう！」
「ええ！もうお控えになられた方がよいですよ、ミスター」
クラークにしがみ付いたまま、私は歩き出し、そしてバーには行かず、スイートルームまで送らせた。

もう酔いが足にきている振りをしながらカードキーを滑らせる。扉を開けるクラークに寄りかかりながら、手を振り回し、「本当はあいつは嫌いなんだ」と嘯くと、すれ違う貴婦人に慈悲に満ちた視線を向けられたクラークは困ったように口元を緩めた。

ガチャリと扉がしまる。

一番手前にあるベッドルームのベッドに腰掛けて足を差し出すと、当然のように靴を脱がしてくれる。跪くクラークの眼鏡が下を向き、レンズの隙間から長い睫毛が見える。ぎこちなく感じられるほどに、優しすぎる手。

「本当は、お前に甘えたかっただけだ」

ぽつりと口にすると、クラークは顔を上げ、そしてこの上なく、男前の顔で微笑んだ。眼鏡がそっと外され、床に置かれる。

――そのあとは、いわなくてもわかるだろう。



声も出ないほど、甘やかしてもらったんだ。スイートあったベッド、三つとも全部使ってやったさ。

しかし、……ただ、気まぐれに、甘えてみたかっただけだったんだが、翌日の会議をすべてすっぽかすという代償はかなり大きかった。ルシアスは黙って言い訳を聞き流し、アルフレッドに通告した。

おかげで「お加減が悪いときに外出など…！」とベッドに放り込まれたまま。

僕が行ってくるから、とパトロールに出るディックが心配げな視線を向けてきて、胸が痛む。



まだ回復しきらない嗄れた喉を押さえ、もっと自制しようと心に決めた。