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「レスリーに駄目だったと言わないといけないな」
屋敷に連れ戻されたブルースはそう執事にいい残し、バスルームに消えた。
「ニュースに出てございましたよ」
炎上する廃倉庫の映像はしかし二秒ほどで消える。全米ニュースとしてはたいしたことではないのだろう。しかし今日の探偵ごっこが不首尾に終わったことは確実だった。ブルースの探していたものが何だったのかははっきりしないが、関係のない倉庫が爆発炎上し、しばらくはあの地区に入れまい。
アルフレッドは小さくなっている超人を別のバスルームに押し込み、「夕食は予定通りです」と告げた。
バスルームから埃を落としたクラークが出ると、シンプルな縫製のよいコットンシャツが用意されており、それに腕を通して続きの間に進むと、真白い太腿に目を射抜かれた。
「な、なんで」
どうしてバスローブの丈がそんなに短いんだ。
絶句するクラークを不審げに見返したものの、ブルースは足を組んだせいで裾から覗く太腿に関して注意を払わなかった。
「痛み止めはどうなさいます?」
「必要ない」
「肋骨かい?」
「元からひひが入っていた」
謝ろうとしたクラークを制して、ブルースはつっけんどんにいい、執事に睨まれてばつの悪い顔をした。
「ケント君。私は決断が早い方だが、正直気持ちの整理がつかない。だから今日はただの記者でいてくれないか」
「わかった。……わかりました」
クラークは軽い失望と脆い希望の間で揺れた。
嘘つきとは詰られなかった。だが受け入れられたわけでもない。
「予定通り鴨料理でございますよ」
アルフレッドがクラークを促すと、ブルースは着替えに立ち上がった。鼻先を掠める湿布の臭い。ちらりと覗いた腿の裏側にも打撲の痕がある。だが今の境遇では何故とは問えなかった。
「ブルースさまが」
廊下に出た執事がわずかに笑う。
「ミスタ・ケントは食べっぷりが良いから、技巧に走らず、シンプルにうまいものをたくさん出してやってくれと」
「どうして僕を誘ったんでしょう?」
彼は知っていたと言った。いつから知っていたのか。
黙りこんだクラークに、執事は深遠な眼差しを向けたが、しかし何もいわなかった。