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20080721
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ブルースとピーター卿とアルフレッド。

短いです。そしてまだまだ続きます。

「やあ。ブルース。お邪魔しているよ」
 ウェイン・マナーの客間でソファに沈み込んでいたピーター卿は、帰宅したブルースに陽気に笑いかけ、そして相手のやや疲れた表情に身を起こした。
「御機嫌よう、ピーター卿」
「どうしたんだい。美女に見捨てられたのか?」
「ああ。そういう表現でもいい。ゴッサム・シティ・バンクの役員会議に負けてしまった」
 ブルースはらしくなく、少しタイを緩めると、ピーター卿から少し離れたところへ腰掛けた。
「それ、話したいかい?それとも――」
「いや、あなたが私に話すべきことがあると思うのですが?」
 ブルースが顔を上げると、ピーター卿は薄い唇の端を吊り上げた。
「君が僕の車に全てを察してくれて本当に良かった」
「強盗がレンタカーを使うまではともかく、ダイムラーなんて高級車……」
 ブルースは笑い、アルフレッドが運んできた紅茶を受け取った。
「彼女も承知の上ですね?」
 昨夜、ブルースがホテルまで迎えにいき、そして送り届けた女性。彼女のトランクはブルースの目の前でハーレクィンの衣装を着た男に奪われた。追おうとしたブルースを止めたのは彼女だし、ブルースもまた走り去るダイムラーに犯人を悟った。
「そう。あの女性の依頼なんだ。彼女はさる人物から譲られた美術品を、オークションに出す前に成分分析にかけた。そしてそれが隕石で出来ていると知った。彼女はそれをチャリティー・オークションに出品する予定だったが、取りやめ、そしてある男に付きまとわれるようになったそうだ」
「誰なのです?」
「さあ。最初は老人だったそうだ。隕石のコレクターで、隕石から加工されたそれをどうしても譲って欲しいと。彼女が断ると老人は値を吊り上げた。いかに美術品といえど、不自然なぐらいにね。彼女は断り、次に現れた甘いマスクの優男は彼女を掻き口説こうとした。これはすぐに失敗したそうだ。その次は犬が殺され、部屋が荒らされた。彼女は友人に相談し、僕に依頼をしてきた」
「彼らに盗まれる前に、あなたに盗ませた」
 彼女が自分ではなく、目の前の貴族探偵を頼ったことがショックでなかったとはいえない。すでに終わった恋だとしてもだ。彼女はブルースの夜の顔を知り、そして別れを告げたのだ。昨夜のように友人として会うことはあっても、ブルースがバットマンである限り、彼女はブルースを受け入れない。
「シルバー・セントクラウドという女性は美しく聡明だ。――彼女は犯人はレックス・ルーサーではないかと疑っている」
 ピーター卿はブルースの顔に閃いた叡智の光を見るのが好きだった。彼もまたこの一瞬ですべてを悟ったのだ。
「アルフレッド。最近オークション・カタログから削除されたものがあったか?」
 窓辺で日向ぼっこしていたアルフレッドは細めていた目を開け、ポケットから切抜きを取り出した。
「セントクラウド様の代理人が出品する予定でした品物は、こちらの刀剣でございます。日本の短刀で百年ほど昔のものだとか。事前にカタログに登録されておりましたが、鑑定に不備があったとかで出品取り消しに」
「……君のポケットはどうなっているんだ?」
「じいやが若君の花嫁候補を物色するのは世の習いでございますのでな」
 アルフレッドは日向ぼっこに戻り、ピーター卿はおかしそうに、だが黙って紅茶を口に含んだ。

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