かわいいひと。

初対面ものは何回書いても書き飽きないですっていうか、書きたかったのは冒頭だけですとか、ウェインさんそれって主に女性言葉だってどうしましょう。

セリーナとブルースとクラークが出ますが、誰も彼も恋愛関係にはありません。

書けないなら無理にクラブルにする必要ないかと開き直りました。

萌がほしいです…。寂しい…。。

「じゃあ…またね、アヒルちゃん」

　セリーナの指が意味ありげにブルースの顎のラインをなぞって、そして離れる。ブルースは自分がDuckyと呼ばれたことに驚き、彼女を追うのが遅れた。
「セリーナ」
　すでに彼女は人の海の向うへと押しやられている。セリーナの背中の開いたドレスに誰か女性の手がかかり、ブルースはそれ以上声を上げて引き止めることができなかった。
　セリーナ。キャットウーマン。だが自分はただのブルース・ウェインで、夜の影に潜むしなやかな猫のことなど知らない。
　真っ当な慈善活動のみを通じて繋がる、か細い糸。

「……またね、か」

　ブルースはシャンパンを呷り、陽気な笑い声を立てながら、ゆっくりと出口を目指した。
　目ぼしい女の子たちには声をかけた。政財界の顔ぶれにも挨拶をしたし、慈善活動に熱心な老婦人に気前良く小切手を切ったし、あとはゴシップのネタを一つ？
「……まあ、今日はいいだろう」
　縺れる舌が危ない。口の中で呟いただけの言葉に反応したように、猫背の男がブルースを振り返る。そのスカイブルーの瞳はブルースの目の前にあって、次の瞬間、彼は飛び下がった。その拍子にブルースの胸にシャンパンが掛かる。
「あわ！す、すみません！」
　大変だ、とブルースの胸元をポケットチーフで拭い、彼は余計に染みを広げた。
「ああ、いいよ。かまわない。もう帰るところだから」
「本当にすみません。クリーニング代をお支払いいたします」
　ぺこぺこと頭を下げる男の眼鏡には見覚えがある。ブルースは小首を傾げた。
「君、どこかで――。ロイス・レーンの関係じゃないか？」
「え？」
　そこで初めて男はブルースの顔を真正面から見、目を見張った。
「み、ミスタ・ウェイン…！」
　長身を丸め、やぼったい眼鏡をかけた男。体格は良いのに、それを恥じるようにうつむいている新聞記者。ブルースは美人記者にくっついていた彼の名前を思い出そうと、脳内のファイルを高速で捲った。
「ケント！」
「はい！」
　記憶の底から探しあてたブルースと、過剰に反応したクラーク・ケントは二人で驚き、そしてそそくさとパーティ会場を後にした。
「君、出てきてしまって良かったのか？」
「あ、大丈夫です。もう目当ての取材は終わりましたんで」
　そうか、とブルースは頷き、エントランスホールのど真ん中で立ち止まると、問うた。
「私は、どこかアヒルに似た面立ちをしているのだろうか？」
「はぃ？」　
「さる女性に言われてね、私はアヒルみたいに役立たずなんだろうか。…ああ。そうかも知れないな。でもいいか。溺れた菫のような目をしているとか言われたわけでもなし」
　ぶつぶつと呟く大富豪に、平凡な新聞記者は眉を下げた。
「あの、もしかして、失礼ですが、酔っ払ってます？」
「失礼な。無論、足がふらふらですでに躓きそうなんていわないぞ！」
　クラーク・ケントはボーイに目配せすると、立ちすくむ大富豪を脇から抱え、車に押し込んだ。
　シートに身を沈めるとすやすやと眠る大富豪に、ゴッサムって意外に平和なんじゃないかとクラークは思ったが、自分も乗り込むと行き先を告げもしないのに、運転手はウェイン邸を目指した。
「はあ。もう。Duckなんて。かわいい人って呼ばれても仕方ないですよ」
　クラークはブルースの薄く開いた口をそっと摘んで閉め、ロイスへの言い訳に溜め息を漏らした。