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20080721
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ゴードンさん登場。ほんの一幕。

 広間にゴードンが現れたとき、ブルースは賑やかな様子に柔らかく解けていた口元をきつく結んだ。
「やあ」
 それに気付きながらもゴードンは眼鏡の奥で笑み、ブルースはぎこちなく手を挙げて答えた。
「来てくれて、ありがとう。ゴードン」
 ゴードン。まだ少年だったブルースの命の恩人だ。いつも深く眠ったあとは訪れてくれる昔馴染みの存在に安堵する。同時にまたゴードンは死にそこなったのだとブルースは切なくなった。
 ゴードンは死にたがっている。呪われた生より愛ある死を望んでいる。
「いいんだよ。ブルース。これは私の話で君の話じゃない」
 ゴードンはブルースの肩を叩き、ブルースは目を伏せた。
「…あなたがいてくれて、すごくうれしいんだ…。ごめんなさい」
 愛した妻バーバラを失い、ゴードンの心は白く重い靄に閉ざされた。死ぬ術を求め、ときに最愛の妻の面影を闇に捜す。なまじ力があるだけに、簡単に死ぬことも出来ず、ゴードンはひっそりと数百年を生き抜いてきた。それを知っているブルースは彼の存在に喜ぶ、身勝手な己が恥ずかしかった。
「君が私を待っていてくれて私もうれしいよ。さて、何か食べるものはあるかな。夜勤上がりでね」
「アルフレッドに何か頼みましょう。まだ警察にいるのですね」
「ああ。今は警部さ。夜番だけどね。もし良かったら、娘の分もいいかな。留守番させているんだ」
 ゴードンがにこやかに仕掛け、ブルースは目を丸くしたまま固まった。
「…娘?」
「養女だよ。ある事件で両親を失ってね。引き取ったんだ」
「名前は?」
 尋ねるとゴードンは少しばかり、眉を寄せた。
「バーバラだよ。いま8歳でね。すごく賢い」
「バーバラ。それはいい。おめでとう。あなたの家族に乾杯しなくては」
 ブルースは輝くように微笑み、そしてグラスを掲げた。
「いつか来る日があるとも、今を祝福して」

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