20080721
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うーん。うーーーーん。出だしなのにまだ終わらない…!
あ、クラブルです。
あ、クラブルです。
飛び込んだ先にはブルースしかいなかったが、しかし彼はまだ受話器を下ろしきっていなかった。よって僕が殴られた音はきっとあの若者に聞こえたと思う。
「痛いよブルース!」
「痛いのはお前の行動だ!何を覗きなんてしている?!」
ホテルのスィートルームの前を通りかかっただけなのに、という言い訳は却下された。
「通りかかっただけなら、立ち止まらずともいいだろうが。貴様はバーティの部屋を透視したんだ。違うか?」
それはその通りだ。あのホテルのガラスは覗くものなき最上階といえど、反射シートが貼ってあるから外部から中を見ることはできない。つまりマジックミラーになっていて、僕があの若者と目が合ったのは、僕が透視したからなのだ。だってあのスィートは彼が年間契約している部屋なのだ。誰か人の気配があればブルースが来ていると思うじゃないか。
「だって君、外務省に呼び出されたって!」
今朝、政治部の記者が駆け込んできたのは、ブルース・ウェインが外務省に呼び出されたという話の裏を取るためだった。最近ブルースと仲がいいと評判の芸能部の女の子はそんな話を聞いてもいなかったし、社主お気に入りのロイスだって知らなかった。
もちろん、僕だってそうだ。いかにゴッサムの貴公子といえど、政治家でもないブルースが外務省に声を掛けられるなんて、何かイベントの推進大使かと思いきや、イギリスとの交渉役だというのだからこれはかなり驚きのニュースだ。
「わたしには真面目な仕事がないとでも言いたげだな」
「いや、そんなつもりは……」
ブルースの不機嫌な顔にびくびくしていると、彼は大きなため息を吐き、僕をソファに座らせた。ふかふかのクッションに沈み込むスーパーマンをみて、ゴッサムの王子が笑う。咄嗟に着替えようとした僕を彼は止めた。
「着替えなくていい。理由を話してやるから、すぐに帰れ。わたしも夕方にはメトロポリスに向かう」
すぐに帰れといいながら、ブルースは僕の膝の上に座った。
「ブルース!」
「とある問題でな、フランスとイギリスの中がこじれた。それでイギリス政府はフランス語に堪能なピーター・ウィムジイ卿を交渉役に送り出した。まるく収まりそうな頃になってからアメリカがちょっかいを出して、イギリスが怒った。で、今度はピーター卿のご機嫌取りのために、仲がいいと評判のウェイン氏が呼び出されたわけだ」
「どういう問題なんだい?」
国と国との話し合いは、人物の好悪で決まるような単純な話なのだろうか。
「単純なものなんだ。誰もが理性で話し合えるなら戦争など起こらない」
ブルースの手が僕の頬を滑り、そして後頭部の髪を弄りだす。これは、キスしてもらえるかも、と思ったらもう胸が期待でいっぱいであとの話が理解できない。
「戦時中の美術品の返還要求だ。大英博物館は略奪の成果だからな。一個でも返還交渉に応じれば、あとは際限がない。一歩たりとも譲りたくはないのさ。だがフランスも同じだ。アメリカも」
「……じゃあ、君が危ないことはないんだね?ウェインさん」
「別に紛争地に派遣されるわけじゃないよ。スーパーマン」
口の端を上げて笑うブルースの表情が好きだ。うっとり見惚れるとそのまま柔らかな口付けがあって、僕はあっさり離れようとするそれに追いすがった。
ときどき、ブルースはケープをつけたままの僕に欲情する。ただそれは絶対に闇の騎士ではなくて、軽やかな大富豪でいるときだった。
深くなるキスから逃れようとするブルースを押し倒し、僕は微笑んだ。
頬が上気したブルースときたら、胸が痛くなるほどだ。
「君が好きだ」
素直な感動は僕の口からこぼれ、彼は眉を寄せた。もう一度キスをしようとするのを、彼の手が止めた。
「ストップ。時間切れだ」
「仕事かい?」
ほんのわずかな照れを一瞬で押しやって、ブルース・ウェインはプレイボーイの顔で皮肉っぽく眉を上げた。
「下で客人を待たせている。もう帰れ」
「……ごめん」
来たときと同じように窓から飛び出ると、ブルースの声が背中に追いついた。
「また、夜にな」
慌てて振り返ったときには、すでに彼はいなかったけれど。
ほんのわずかに愛しげなものが混じっていたと、思っていいだろう?
「また、夜にね」
「痛いよブルース!」
「痛いのはお前の行動だ!何を覗きなんてしている?!」
ホテルのスィートルームの前を通りかかっただけなのに、という言い訳は却下された。
「通りかかっただけなら、立ち止まらずともいいだろうが。貴様はバーティの部屋を透視したんだ。違うか?」
それはその通りだ。あのホテルのガラスは覗くものなき最上階といえど、反射シートが貼ってあるから外部から中を見ることはできない。つまりマジックミラーになっていて、僕があの若者と目が合ったのは、僕が透視したからなのだ。だってあのスィートは彼が年間契約している部屋なのだ。誰か人の気配があればブルースが来ていると思うじゃないか。
「だって君、外務省に呼び出されたって!」
今朝、政治部の記者が駆け込んできたのは、ブルース・ウェインが外務省に呼び出されたという話の裏を取るためだった。最近ブルースと仲がいいと評判の芸能部の女の子はそんな話を聞いてもいなかったし、社主お気に入りのロイスだって知らなかった。
もちろん、僕だってそうだ。いかにゴッサムの貴公子といえど、政治家でもないブルースが外務省に声を掛けられるなんて、何かイベントの推進大使かと思いきや、イギリスとの交渉役だというのだからこれはかなり驚きのニュースだ。
「わたしには真面目な仕事がないとでも言いたげだな」
「いや、そんなつもりは……」
ブルースの不機嫌な顔にびくびくしていると、彼は大きなため息を吐き、僕をソファに座らせた。ふかふかのクッションに沈み込むスーパーマンをみて、ゴッサムの王子が笑う。咄嗟に着替えようとした僕を彼は止めた。
「着替えなくていい。理由を話してやるから、すぐに帰れ。わたしも夕方にはメトロポリスに向かう」
すぐに帰れといいながら、ブルースは僕の膝の上に座った。
「ブルース!」
「とある問題でな、フランスとイギリスの中がこじれた。それでイギリス政府はフランス語に堪能なピーター・ウィムジイ卿を交渉役に送り出した。まるく収まりそうな頃になってからアメリカがちょっかいを出して、イギリスが怒った。で、今度はピーター卿のご機嫌取りのために、仲がいいと評判のウェイン氏が呼び出されたわけだ」
「どういう問題なんだい?」
国と国との話し合いは、人物の好悪で決まるような単純な話なのだろうか。
「単純なものなんだ。誰もが理性で話し合えるなら戦争など起こらない」
ブルースの手が僕の頬を滑り、そして後頭部の髪を弄りだす。これは、キスしてもらえるかも、と思ったらもう胸が期待でいっぱいであとの話が理解できない。
「戦時中の美術品の返還要求だ。大英博物館は略奪の成果だからな。一個でも返還交渉に応じれば、あとは際限がない。一歩たりとも譲りたくはないのさ。だがフランスも同じだ。アメリカも」
「……じゃあ、君が危ないことはないんだね?ウェインさん」
「別に紛争地に派遣されるわけじゃないよ。スーパーマン」
口の端を上げて笑うブルースの表情が好きだ。うっとり見惚れるとそのまま柔らかな口付けがあって、僕はあっさり離れようとするそれに追いすがった。
ときどき、ブルースはケープをつけたままの僕に欲情する。ただそれは絶対に闇の騎士ではなくて、軽やかな大富豪でいるときだった。
深くなるキスから逃れようとするブルースを押し倒し、僕は微笑んだ。
頬が上気したブルースときたら、胸が痛くなるほどだ。
「君が好きだ」
素直な感動は僕の口からこぼれ、彼は眉を寄せた。もう一度キスをしようとするのを、彼の手が止めた。
「ストップ。時間切れだ」
「仕事かい?」
ほんのわずかな照れを一瞬で押しやって、ブルース・ウェインはプレイボーイの顔で皮肉っぽく眉を上げた。
「下で客人を待たせている。もう帰れ」
「……ごめん」
来たときと同じように窓から飛び出ると、ブルースの声が背中に追いついた。
「また、夜にな」
慌てて振り返ったときには、すでに彼はいなかったけれど。
ほんのわずかに愛しげなものが混じっていたと、思っていいだろう?
「また、夜にね」
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