20080721
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クロスオーバー。
ブルースとピーター卿とバーティー。
一回やってみたかったんです。すみません!
ブルースとピーター卿とバーティー。
一回やってみたかったんです。すみません!
「ブルース!」
メトロポリス・リッツのティーサロンに入るなり飛びついてきた若者に、ブルース・ウェインは目を丸くして柔らかな金髪を受け止めた。
「バーティー?」
「聞いてくれ、ブルース。ひどいんだ。ジーヴスったら勝手にぼくの藤色のシャツを捨てちゃったんだ!」
涙目で訴える年下の若者を引き剥がして、ブルースは給仕を呼んだ。頭の弱い女優崩れに腕を絡められるよりはずっといいが、爵位はなくとも貴族階級に属する見目良い青年と人目のあるところで抱き合う気にはなれない。パパラッチのいい餌食だ。
「食事を。席は彼と同じところに」
「こちらでございます」
給仕が案内した個室には、すでに優雅な仕草で手を挙げる紳士がいて、ブルースは苦笑した。デンバー公爵の弟にして、私立探偵を趣味とするピーター・ウィムジイ卿。
「ご結婚おめでとうございます。従僕ごとハネムーンに行かれたそうですね」
「バンターは特別だよ。従僕や執事といった言葉だけでは括れない。それに妻もその方が安心するって言ってくれてね」
ピーター卿は幸せいっぱいの蕩け顔、傍らではバーティがしょぼんとしているが、昼食には悪い面子ではない。それどころか大歓迎だ。ピーター卿はウィットに富んでいるし、バーティーは年若い青年にしては純粋で高潔な魂の持ち主だ。若干、己が執事にまで小馬鹿にされるほどに頼りない面もあるが、すべて頼まれたら断れないという騎士道精神によるものだと、ブルースは知っている。
白いテーブルクロスの上に給仕の手がすべり、食事の用意が整うと、ブルースはワイングラスを掲げた。
「お祝いです。バンター氏の雇用継続に」
「ありがとう。じゃあ哀れな藤色のシャツに」
「アルフレッドの銀糸に」
それぞれがグラスを掲げ、苦い笑みを刻む。ブルースはバーティことバートラム・ウースターの上品なキャメルのスーツと磨きこまれた靴に目を走らせ、そして深く頷いた。
「今だからいうが、あの藤色のシャツは君には似合わなかったよ」
「でもぼくは気に入ってたんだよ、ブルース?」
「きれいな色だったし、君が気に入るのもわかるけれど、何というかあの紫は――」
「色っぽくみえるからね。そんな危うい姿で若主人を外に出すのはジーヴスには到底できないだろうさ。君は藤色を着るには肌の色が白すぎる」
軽く笑い飛ばして、ピーター卿は一番の年上でありながら、一番無邪気な顔でウィンクしてみせた。ブルースが言いたかったことを正しく言ってくれて、ほっとする。
だがそんなブルースにピーター卿はチェシャ猫のように笑いかけた。
「そういえば、君によく似た人を出会い系サイトでみたとか」
ブルースは目を見張り、そしてくっと口元を歪めた。
「英国一の探偵はそんなことまでご存知なんですか?」
「うーん。クリンプスンさんがいうには事務所の誰だったかが見つけたとか。ほら、女性が多いからね。うちの事務所は」
「ああ。名高い猫たちの餌食となるとは。――アルフレッドですよ。彼があんまりにも私を心配して、勝手に登録したんです」
最終的にはアルフレッドは若く美しい女性と出会う約束まで取り付けたが、ブルースは行かなかった。その後相手の女性がどうしたかは知らない。
「あははは。最高だな、君のアルフレッドは。ジーヴスはどうだい?」
「ジーヴスも最高ですよ。去年はぼくの縁談を二つばかり壊してくれました」
にっこりと微笑む若者に、二人は一瞬沈黙した。おそらく親族が必死にセッティングした縁談であろうに。今更だかこのバートラム君は伯父の伯爵が死ねば、おそらく筆頭で爵位を継がなくてはならぬ身である。
気楽な独身生活のために犠牲にされたのが若者の対外的な評判だと知っているピーター卿は痛ましそうに目を細め、つとめて明るく言った。
「……まあ、このぼくでもお父さんになれる世の中だからね。何が起こるかわからないさ」
ピーター卿はワインを含み、ブルースは四十半ばを過ぎた男の朗報にグラスを鳴らした。
「素晴らしい。レディ・ピーターにお祝いを贈りますよ。何がよろしいですか?」
「残念ながら彼女はウェイン家にたかれるほど欲深くないんだ。でも農場と田舎屋敷以外なら何でも受け取るよ」
「ロンドンのフラットとデンバーの領地と農場が揃ったならもう不動産はいりませんね。仕方ない。あまり面白みのない贈り物になるでしょうが、アルフレッドに相談して何か考えます」
「あ、死体ももういい。子供は平凡に育てたいんだ」
「名高い貴族探偵と推理小説作家の子が平凡に育つとは思えませんが、そういうことでしたら「屋外における血液凝固の経過報告」とかは却下ですね?」
「あー。君は妻の興味を引くのが上手い。新居には遊びに来ないでくれたまえ」
ピーター卿は笑いながら追い払うように手を振り、バーティーはにっこりとした。
「ぼくのフラットにはいつでも遊びにきてくれてかまわないよ、ブルース」
「ああ。遠慮するよ、バーティー。ウェイン氏さえも比類なきジーヴスに相談事を持ち込んだと世間に思われたら、アルフレッドが首を括りかねないからね」
そうしてウェイン氏はプレイボーイよろしく、とびきりの甘い顔で片目を瞑ってみせた。
メトロポリス・リッツのティーサロンに入るなり飛びついてきた若者に、ブルース・ウェインは目を丸くして柔らかな金髪を受け止めた。
「バーティー?」
「聞いてくれ、ブルース。ひどいんだ。ジーヴスったら勝手にぼくの藤色のシャツを捨てちゃったんだ!」
涙目で訴える年下の若者を引き剥がして、ブルースは給仕を呼んだ。頭の弱い女優崩れに腕を絡められるよりはずっといいが、爵位はなくとも貴族階級に属する見目良い青年と人目のあるところで抱き合う気にはなれない。パパラッチのいい餌食だ。
「食事を。席は彼と同じところに」
「こちらでございます」
給仕が案内した個室には、すでに優雅な仕草で手を挙げる紳士がいて、ブルースは苦笑した。デンバー公爵の弟にして、私立探偵を趣味とするピーター・ウィムジイ卿。
「ご結婚おめでとうございます。従僕ごとハネムーンに行かれたそうですね」
「バンターは特別だよ。従僕や執事といった言葉だけでは括れない。それに妻もその方が安心するって言ってくれてね」
ピーター卿は幸せいっぱいの蕩け顔、傍らではバーティがしょぼんとしているが、昼食には悪い面子ではない。それどころか大歓迎だ。ピーター卿はウィットに富んでいるし、バーティーは年若い青年にしては純粋で高潔な魂の持ち主だ。若干、己が執事にまで小馬鹿にされるほどに頼りない面もあるが、すべて頼まれたら断れないという騎士道精神によるものだと、ブルースは知っている。
白いテーブルクロスの上に給仕の手がすべり、食事の用意が整うと、ブルースはワイングラスを掲げた。
「お祝いです。バンター氏の雇用継続に」
「ありがとう。じゃあ哀れな藤色のシャツに」
「アルフレッドの銀糸に」
それぞれがグラスを掲げ、苦い笑みを刻む。ブルースはバーティことバートラム・ウースターの上品なキャメルのスーツと磨きこまれた靴に目を走らせ、そして深く頷いた。
「今だからいうが、あの藤色のシャツは君には似合わなかったよ」
「でもぼくは気に入ってたんだよ、ブルース?」
「きれいな色だったし、君が気に入るのもわかるけれど、何というかあの紫は――」
「色っぽくみえるからね。そんな危うい姿で若主人を外に出すのはジーヴスには到底できないだろうさ。君は藤色を着るには肌の色が白すぎる」
軽く笑い飛ばして、ピーター卿は一番の年上でありながら、一番無邪気な顔でウィンクしてみせた。ブルースが言いたかったことを正しく言ってくれて、ほっとする。
だがそんなブルースにピーター卿はチェシャ猫のように笑いかけた。
「そういえば、君によく似た人を出会い系サイトでみたとか」
ブルースは目を見張り、そしてくっと口元を歪めた。
「英国一の探偵はそんなことまでご存知なんですか?」
「うーん。クリンプスンさんがいうには事務所の誰だったかが見つけたとか。ほら、女性が多いからね。うちの事務所は」
「ああ。名高い猫たちの餌食となるとは。――アルフレッドですよ。彼があんまりにも私を心配して、勝手に登録したんです」
最終的にはアルフレッドは若く美しい女性と出会う約束まで取り付けたが、ブルースは行かなかった。その後相手の女性がどうしたかは知らない。
「あははは。最高だな、君のアルフレッドは。ジーヴスはどうだい?」
「ジーヴスも最高ですよ。去年はぼくの縁談を二つばかり壊してくれました」
にっこりと微笑む若者に、二人は一瞬沈黙した。おそらく親族が必死にセッティングした縁談であろうに。今更だかこのバートラム君は伯父の伯爵が死ねば、おそらく筆頭で爵位を継がなくてはならぬ身である。
気楽な独身生活のために犠牲にされたのが若者の対外的な評判だと知っているピーター卿は痛ましそうに目を細め、つとめて明るく言った。
「……まあ、このぼくでもお父さんになれる世の中だからね。何が起こるかわからないさ」
ピーター卿はワインを含み、ブルースは四十半ばを過ぎた男の朗報にグラスを鳴らした。
「素晴らしい。レディ・ピーターにお祝いを贈りますよ。何がよろしいですか?」
「残念ながら彼女はウェイン家にたかれるほど欲深くないんだ。でも農場と田舎屋敷以外なら何でも受け取るよ」
「ロンドンのフラットとデンバーの領地と農場が揃ったならもう不動産はいりませんね。仕方ない。あまり面白みのない贈り物になるでしょうが、アルフレッドに相談して何か考えます」
「あ、死体ももういい。子供は平凡に育てたいんだ」
「名高い貴族探偵と推理小説作家の子が平凡に育つとは思えませんが、そういうことでしたら「屋外における血液凝固の経過報告」とかは却下ですね?」
「あー。君は妻の興味を引くのが上手い。新居には遊びに来ないでくれたまえ」
ピーター卿は笑いながら追い払うように手を振り、バーティーはにっこりとした。
「ぼくのフラットにはいつでも遊びにきてくれてかまわないよ、ブルース」
「ああ。遠慮するよ、バーティー。ウェイン氏さえも比類なきジーヴスに相談事を持ち込んだと世間に思われたら、アルフレッドが首を括りかねないからね」
そうしてウェイン氏はプレイボーイよろしく、とびきりの甘い顔で片目を瞑ってみせた。
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